はじめに #
嫁ちゃん
わたし
そらちゃん
今日は長財布づくりの続きを進めた。革のカットから小銭入れの準備、ファスナーの長さ調整など、作品の骨格となる工程を進めることができた。
夜間は大きな音を出す作業ができないので、木槌で菱目打ちを叩くような作業は日中に回し、夜は静かに革と向き合う時間に充てている。定規を当てて刃を滑らせる音や、糸を引くかすかな摩擦音だけが机の周りに静かに落ちる。作業台の上を一度きれいに片付け、今日進めたパーツを並べて眺めながら、こうしてブログに記録をつけている。
今回長財布を作っているのは、自分自身が普段使いする私物として仕立ててみたいという理由もあるが、何よりレザークラフトの定番的な作品を一通り経験し、仕立ての手順を体に染み込ませておきたいという思いが大きかった。カードポケット段の重なり、札入れのゆとり、小銭入れの厚みなど、小物づくりとは違う構造のシビアさがある。今の自分の現在地を確かめるには、ちょうど良い挑戦だと感じている。
型紙からのパーツ裁断 #
作業はまず、型紙をもとにした生成りヌメ革のカットからスタートした。
レザークラフトにおいて、裁断の精度はその後のすべての工程の仕上がりを左右する。コンマ数ミリの歪みでも、後の貼り合わせでズレとなって跳ね返ってくるからだ。刃先を新しく折ったカッターナイフと直定規を構え、革の伸びる方向や繊維の詰まり具合を見極めながらパーツを一つずつ慎重に切り出していく。定規が滑らないよう指先に体重を乗せ、息を整えながら刃を引く。

大きなパーツをすべて切り終えると、まだ平面的ではあるものの、財布の全体像がおぼろげに見えてくる。
今回作っているのはシンプルな長財布だ。パーツの総数はそれほど多くはないのだが、そのぶん誤魔化しがきかない。裁断の段階で角が直角に立ち、直線がすっきりと出ていれば、この後の床面処理やコバ磨き、貼り合わせの作業が格段に楽になる。切り終えたパーツの手触りを確かめながら、まずは最初の関門を無事に通過できた手応えを感じた。
ファスナーの長さ調整と格闘 #
裁断を終え、続いて小銭入れパーツに取り付けるファスナーの準備へと移った。
今回の財布づくりは、YouTubeの「ネトラポートch」の丁寧な解説動画を参考に進めている。(私はネトラポートchのメンバーシップであるAクラスに参加して日々学んでいる)。
動画の中で先生が使われているのは15cm規格のファスナーなのだが、手元の在庫や近場のショップを探してみても、ちょうど良い長さのものが見当たらない。そこで今回は16cmの金属ファスナーを購入し、自分で長さを詰めて調整することにした。

動画の指示通り、仕上がり寸法が15.3cmになるように長さを計算する。この「15.3cm」というわずか数ミリの端数が、財布を開閉したときのマチの逃げや、小銭の出し入れのスムーズさを左右する。
ファスナーの務歯(ムシ)を外すには、本来なら「喰い切り」という専用工具を使うのが定石だ。喰い切りならムシの根元を真上から挟み、綺麗に切り取ることができる。
だが手元に喰い切りがなかったため、手持ちの精密ニッパーだけで作業することにした。テープ(布地)を傷つけないよう細心の注意を払いながら、ムシをひとつずつ挟んでひねり、金属の爪を外していく。二つずつ外しては長さを確認する地道な作業だ。
最近は老眼もあって、米粒よりも小さな金具にピントを合わせるのがなかなか辛い。作業台のライトを明るく照らし、顔を近づけながらなんとか調整を終えた。スライダーを滑らせて引っかかりがないことを確認し、思わず小さく安堵の息を漏らした。さらにファスナー部分に合わせて革をくり抜く作業もあり、予想以上に神経を使う工程となった。
小銭入れとレーシングポニーの導入 #
ファスナーの仕込みを終え、いよいよ小銭入れパーツの組み立てと縫製に入る。

小銭入れ自体の構成はシンプルなファスナー仕様なので、工程そのものが極端に複雑なわけではない。しかし今回は、自分にとって新しい挑戦があった。新しく購入した「レーシングポニー」を実戦で初めて使ってみたことだ。

これまで私は、革を手で保持しながら両手を使って針を通すスタイルで縫っていた。レーシングポニーを使えば革を固定できるため、両手が完全に自由になり、手縫いのスピードもステッチの揃い具合も向上するはずだった。
ところが、実際に使ってみると現実はそう簡単にはいかない。
まず、道具に体が慣れていない。このタイプのレーシングポニーは机の上に載せるのではなく、作業用の椅子に土台を置き、その上から自分が座って体重で固定して使うタイプだ。太ももの下に挟み込む位置や座る角度、どの高さにアームを持ってくれば自然に針を運べるのか、自分に合った基本のフォームがなかなか定まらないのだ。縫う作業そのものよりも、道具に自分の身体を馴染ませることに時間を費やしてしまった。
さらに最初はレーシングポニーのネジの締め付けが少し甘く感じられたが、ヒンジ部分をプラスドライバーで調整できることに気づき、適度に締め直すことで革をしっかり固定できるようになった。
ただ、ずっと手で革を持って縫ってきた感覚があるため、革が固定されると針を通す手の角度や糸を引くテンションの加減が狂ってしまう。結果としていつもよりステッチの目が不揃いになり、縫い目が少し乱れてしまった。便利な道具も、手足のように使いこなすには練習と時間が必要だと痛感させられた。
生成りヌメ革の刻印と水染み #
今回の財布には、表面に加工を施していない素朴な生成りヌメ革を使っている。
生成りヌメは使い込むほどに日光や手の脂を吸い、深みのある飴色へと育つエイジングの魅力が詰まった革だ。しかしその反面、製作中の取り扱いには最も神経を使う。わずかな水分や指先の皮脂さえも容赦なく吸い込んで、そのまま表情として残ってしまうからだ。
今回は小銭入れパーツに、自分の屋号である「OKADAi Leather Atelier」の刻印を打つ工程があった。
ヌメ革に刻印をくっきりと深く定着させるため、革の銀面に軽く水分を含ませて繊維を柔らかくしてから打刻するのが基本の手順だ。そこで水を含ませた布を使い、刻印を打つ箇所だけを湿らせてから慎重に打刻した。
刻印自体は狙い通りきれいに打つことができた。しかし、革が完全に乾いた後を見てみると、水を染み込ませた部分の周囲に、うっすらと輪染みのような境界線の跡が残ってしまった。
本来ならパーツ全体の表面を均一に軽く湿らせれば目立たなくなるのだが、全体的に革に水を当てることに少し抵抗があり、その中途半端な判断がそのまま水染みとして残ってしまった形だ。
私物の財布なので「これもエイジングの味」と前向きに受け止められるが、作品づくりとしては反省点だ。生成りヌメの繊細さを改めて胸に深く刻み込む経験となった。
ヘリ落としは「こまめに研ぐ」 #
最後に、切り出した各パーツのコバ(断面)を整えるヘリ落とし作業について。

ヘリ落としは非常に繊細な刃物で、少しでも刃先が鈍るとすぐに革の繊維を引っかけてしまい、角をきれいに削ぎ落とせなくなる。
今回の作業でも途中でわずかに刃の引っかかりを感じたため、「数回ヘリを落としたら、すぐに刃先を軽く研ぎ直す」というルーティンを意識的に挟みながら進めてみた。
このひと手間を惜しまなかったおかげで、最後まで鋭い切れ味をキープできた。研ぎ立ての刃先を当てると、細い糸のように角がスルスルと削れ落ちていく。この削り心地の手応えは、レザークラフトをやっていて最も爽快な瞬間のひとつだ。道具を手入れしながら進めるテンポの大切さを実感した。
おわりに #
嫁ちゃん
わたし
そらちゃん
喰い切りがない中でのファスナー調整、初めて使って振り回されたレーシングポニー、生成りヌメ革の水染み。
今回の作業は手探りで試行錯誤したことのほうが多かったが、パーツが揃っていく光景を眺めていると純粋な充実感が湧いてくる。失敗も含めて経験が手に蓄積されていく感覚がある。
今夜の作業はここまで。道具を片付け、作業台を綺麗に拭き上げて終了とする。次回は小銭入れをまとめ、内装パーツの組み立てと長財布全体の貼り合わせへと進めていく予定だ。
大
OKADAi Leather Atelier